上記4つは、お遍路さんの装束のひとつである菅笠に書かれたことばです。菅笠には、このほかに、弘法大師を表す一文字の梵字と、「同行二人」の四文字が書かれています。お大師さんが真正面にくるようにかぶるのが正式な姿です。
迷うが故に三界は城 悟るが故に十方は空
本来東西無く 何処にか南北あらん
私たち人間は、普段、迷いという名の城の中に生きている。しかし、仏のこころで生きるようになれば、ほんとうの意味での「自由」というものが見えてくる。本来、「いま」そして「ここ」には、東も西もなく、南も北もない。果てしない自由が広がっているだけである。……だいたいこういった意味になるでしょうか。
私自身、数年前より「区切り打ち」で四国八十八箇所巡礼をさせていただいているのですが、お遍路中は、どんなに未熟な自分でも、ごくごく自然に、「この一歩こそ、一期一会だ……」といったような気分になるのだから不思議なものです。
一歩踏み出すごとに、まったくあたらしく開けてくる「世界」と、その都度まったくあたらしい「自分」として、まったくあたらしく出会っていく。これは、「自由」以外のなにものでもないなあ、と……。「いま・ここ」で出会う「すべて」に、ただただ、「ありがとう」だなあ、と……。
まあ、こんな殊勝なことを思っても、日常の生活に追われて余裕を無くすと、あっという間に迷いの世界に逆戻り……なんですけれどね。情けないお話です。でも、ほんとうは「十方は空」であることを常にこころにおいて、一歩一歩を、まったくあたらしく生きていけたらいいなあ……と。そんなことを強く思うこの頃です。
南無大師遍照金剛
(「ほぼ週刊彼岸寺門前だより」2015年9月27日発行号より転載)